VTuber「推し活」による地方創生 (後編)~2度目となるコラボイベントの経済効果は…~

2025-09-16

事例②:志摩スペイン村 × 周央サンゴ × 壱百満天原サロメ

三重県志摩市のテーマパーク「志摩スペイン村」と、人気VTuber「周央サンゴ」および「壱百満天原サロメ」(いずれもにじさんじ所属)によるコラボイベントは、2024年2月10日から5月10日までの3か月間にわたって開催された。出演VTuberが2名となり、イベント規模・期間ともに前年より大幅に拡大したことで、さらなる注目を集めた。本コラボレーションでも、来場者が楽しめる多様な体験が提供された。

主な内容は以下の通りである。

お皿ラリー
⚪︎周央サンゴ氏と壱百満天原サロメ氏による手書きのお皿を探すパーク内ラリーが実施された
⚪︎料金:1,500円、A4クリアファイル付き

特別作品の上映
⚪︎カンブロン劇場では、2人によるクイズやスペイン語講座、志摩スペイン村のテーマソングである「きっとパルケエスパーニャ」の歌唱など、ここでしか見られない特別作品が上映された

コラボメニュー
⚪︎周央サンゴ氏と壱百満天原サロメ氏をイメージした特別なフード・ドリンクメニューが登場した

オリジナルグッズ販売
⚪︎イベント限定のオリジナルグッズが販売され、来場者の購買意欲を刺激した

近鉄電車との連携
⚪︎鵜方駅でのフォトスポット設置や駅名標装飾、特急車内での特別アナウンス、園内での近鉄コラボグッズ販売などを実施した

これらの企画は、周央サンゴと壱百満天原サロメそれぞれの魅力と志摩スペイン村本来の魅力を融合させ、互いを引き立て合うように設計されていた。

イベントは2023年度と2024年度を跨いで実施された。現時点では2024年度の集客者数は公表されていないが、たとえ2024年度の年間集客者数が公表されていたとしても、同年にはポケモンコラボや30周年記念イベントなど複数の大規模施策が重なっているため、単純に本コラボの効果を年間データから読み取ることは困難である。

そのため、本分析では影響をより正確に把握するために、3月・4月の宿泊者数や鵜方駅利用者数といった月別データを中心に検証を行う。


3月・4月の志摩市宿泊者数の推移は以下の通り9である。
◇志摩市宿泊者数

H30 / 2018
R1 / 2019
R2 / 2020
R3 / 2021
R4 / 2022
R5 / 2023
R6 / 2024
3月
145,792
148,477
61,773
77,732
94,274
162,007
133,107
4月
117,846
115,246
13,747
45,939
82,599
89,535
101,419

「令和6年志摩市観光統計9」をもとに作成

表を見ると、2024年3月の宿泊者数は前年より減少しているが、4月は前年同月を上回り、コロナ禍以降で高水準となっている。2023年4月はコラボイベントが終了した月であったため集客効果は限定的だったと考えられるが、2024年4月はイベント開催中だったことから、コラボイベントが一定の集客増加に寄与した可能性がある。

また、3月・4月の鵜方駅利用者数の推移は以下の通り9である。


◇鵜方駅利用者数

H30 / 2018
R1 / 2019
R2 / 2020
R3 / 2021
R4 / 2022
R5 / 2023
R6 / 2024
3月
30,814
31,821
11,320
14,939
18,329
39,547
33,938
4月
31,381
33,886
3,311
8,938
13,141
17,855
25,263

「令和6年志摩市観光統計9」をもとに作成

2024年3月の利用者数は前年より減少したが、4月は前年を上回り、宿泊者数の推移と同様の傾向を示した。2023年はSNSで大きく話題となり急激な伸びがあったが、2024年は長期開催で来場が分散し、話題性もやや薄れたため、伸びが限定的だったのではないだろうか。しかし、2024年も十分な集客効果があり、近鉄電車との連携施策も利用者増に寄与したと考えられる。

データが不十分で効果検証が困難だった事例

本分析では、VTuberの登録者数が非常に多い「がうる・ぐら」をはじめとする著名VTuberが関わる複数のコラボイベントについても調査を試みたが、十分なデータ収集が困難であり、明確な集客効果や経済波及効果の把握は難しかった。

具体的には、宮城県仙台市のインバウンド政策の一環として実施された「がうる・ぐら × 仙台うみの杜水族館」のコラボイベント10では、YouTube登録者数がVTuber界トップクラスの「がうる・ぐら」が出演したにもかかわらず、REASASや観光予報プラットフォームの統計データからは明確な影響が見られなかった。

また、大分県で開催された「おおいたポップカルチャーフェス11」(白銀ノエル他複数アーティスト出演)や、茨城県鉾田市での「ぶいじゃっくin鉾田 × 因幡はねる × 狼森メイ12」コラボイベントにおいても、登録者数は高水準であるものの、統計データから顕著な変化を検出できなかった。特に鉾田市の事例では、データの信頼性に課題が見られた。

さらに、個人勢VTuberの単独または小規模コラボイベントについても、開催場所が人口集中地であることやイベント規模が限定的であることから、地域統計上の変化を検知することが困難であった。

これらの事例は、VTuberコラボイベントの効果検証には、地域特性やイベント規模に応じた適切なデータ収集・分析手法の選定と、地域自治体・主催者との連携によるデータ整備が不可欠であることを示している。

総括・考察

本分析では、VTuberの登録者数とコラボイベントによる集客効果(仮説1)、およびイベント開催による宿泊者数の増加(仮説2)を検証した。

2023年の志摩スペイン村×周央サンゴ単独コラボイベントでは、約61万人の登録者数を背景にSNSで大きく話題となり、来場者数や宿泊者数、最寄駅利用者数が顕著に増加した。これは仮説1・2を強く支持するものである。特に、VTuber本人による配信やSNSでの言及がファンの訪問動機を高め、イベント全体が「推し活」と親和的に設計されていたことが成功の鍵であったと考えられる。

一方、2024年の2名体制(周央サンゴ・壱百満天原サロメ)で、出演VTuberの総登録者数は増加したが、開催期間の長期化により来場者の来訪時期が分散したと考えられ、ピークの集客増加は2023年ほど顕著ではなかった。このことは、単純な登録者数の多さが集客効果を最大化する唯一の要因ではないことを示唆している。

加えて、2024年はポケモンコラボや30周年記念イベントなど複数の大型イベントが重なった影響もあり、単独の集客効果を正確に測定することは困難であった。しかし、宿泊者数や鵜方駅利用者数の増加傾向は維持されており、仮説2は一定程度支持されると考えられる。

以上の結果から、VTuberの登録者数は集客ポテンシャルの重要な指標の一つであるものの、イベントの開催期間や話題化のタイミング、話題の大きさや注目度、そしてファンとの接点を活かした「推し活」促進など多様な要因が集客効果に影響を及ぼすことが明らかになった。今後の効果的なプロモーション戦略やイベント企画には、これら複合的な要素を踏まえた総合的な設計が不可欠である。

引用文献

9.令和6年志摩市観光統計
https://www.city.shima.mie.jp/material/files/group/33/hpr6-2.pdf

10.Gurarium in Sendai Umino-mori Aquarium
https://www.city.sendai.jp/inbound/vtuberevent.html

11.ポップカルチャーが集結!『おおいたポップカルチャーフェス 2025』が開催されます
https://log-oita.com/popculture2025-oita/

12.【イベント】「ぶいじゃっく! in 鉾田 presented by #まちスパ」を実施!
https://machisupa.com/news/machinews-20240505/