VTuber × 地方創生(前編)~志摩スペイン村での初コラボをデータから読み解く~

2025-09-08

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目次

はじめに

本分析の目的は、VTuber(バーチャルYouTuber)を活用した地域活性化施策によって、地域における人の流れや消費行動にどのような変化が生じるのかを明らかにすることである。具体的には、VTuberとのコラボレーション施策がもたらす「集客効果」および「経済波及効果」について、各種データに基づき定量的に可視化し、その影響の程度と傾向を把握する。

その結果をもとに、今後の地方自治体や地域事業者によるVTuberとのコラボレーション施策において、より効果的なプロモーション戦略やイベント企画の立案・展開に役立てる基礎資料となることを目指す。

VTuber(バーチャルYouTuber)とは

VTuberとは、2DCGや3DCGで描画されたキャラクター(アバター)、もしくはそれらを用いて主にインターネットなどのメディアで活動する動画投稿・生放送を行う配信者の総称である1

キャラクターの背後には実際の演者が存在し、モーションキャプチャーや音声を通じてリアルタイムに表情・動作を反映させる。視聴者は、アニメやゲームのキャラクターが生きているかのような感覚を味わえるのが特徴である。

VTuberの活動内容は、ゲーム実況、歌唱、トーク配信、コラボ企画など多岐にわたり、近年は企業や自治体とのコラボレーションにも積極的に進出している。特に、ファンとの距離感の近さや双方向的な交流のしやすさから、単なるエンターテインメントの枠を超え、地域活性化や観光振興の有力な手段として注目されている。

市場概況

VTuber市場は近年、目覚ましい成長を遂げている。

矢野経済研究所によると、新型コロナウイルス禍に行動制限がなされたことで、自宅における動画視聴需要が高まり、2023年度のVTuber市場規模は、VTuber事務所を運営する企業の当該事業売上高ベースで前年度比153.8%の800億円に拡大したと報告されている2

内訳を見ると、2023年度はグッズが445億円(構成比55.6%)と過半を占め、ライブストリーミングは160億円(同20.0%)、BtoBが131億円(同16.4%)、イベントは64億円(同8.0%)と続いた。イベント領域、グッズ領域、BtoB領域が高い成長率となった。急成長期に比べれば伸び率は落ち着いてきているものの、VTuber市場は拡大傾向にあり、2025年度の同市場は前年度比120.0%の1,260億円規模になると予測されている2

VTuberファン層と「推し活」の消費行動特性

こうした市場成長の背後には、VTuberを支持する熱心なファン層の存在がある。VTuberファンは主に10〜30代の男性と、10〜20代の女性を中心に構成されていると考えられている2。すこしインドアな傾向があり、サブカルやオタクとも言われる趣味と親和性が高い3

VTuberファンの多くは、「推し活」と呼ばれる主体的な応援活動を日常的に行っており、その消費行動にも独自の傾向がみられる。例えば、VTuberは記念イベントなどのタイミングで限定グッズを販売することが多く、ただ漫然とグッズを購入したのではなく、「こういうことが起こったから購入した」という目的意識やキッカケがあってグッズを購入するファンが非常に多い3。こうした消費スタイルは、アニメやリアルアイドルのファンにも共通する面があるものの、VTuberファンは日々の配信やSNSでのやり取りなど、リアルタイムかつ双方向的な関係性を通じて「推しとのつながり」を実感しやすい点に特徴がある。

その結果、ファンは自分の応援がVTuber本人に届いているという感覚を持ちやすく、それがより強い経済的支援へとつながっている。

本分析ではVTuberの活動のうち、特にオフラインコラボイベントに限定して検証を行う。オンライン配信やSNS施策といったデジタル領域の効果も重要であるが、地域経済や観光への直接的な影響を明らかにするため、オフライン施策に焦点を当てる。

仮説1

VTuberの登録者数が多いほど、コラボイベントによる集客効果が高まる。

検証方法:
イベントに出演したVTuberのYouTube登録者数と、イベント実施地域の期間中の来訪者数や滞留人口を収集し、相関分析を実施する。特に、出演VTuberが1〜3人のイベントに絞ってデータを収集し、登録者数と集客人数の関係を定量的に検証する。

仮説2

VTuberとのコラボイベントが実施された地域では、宿泊者数が一時的に増加する傾向にある。

検証方法:
コラボイベントの開催期間と、観光統計などに基づく宿泊者数の月別推移を比較。イベント前後の宿泊者数の変化を可視化し、効果の有無を検証する。

分析対象となるVTuberコラボイベントの概要

みなさま~(広報大使)志摩スペインゴ村へ、来て!
実施場所:志摩スペイン村 住所:三重県志摩市磯部町坂崎952-4
VTuber名(所属):周央サンゴにじさんじ
登録者数:約61万人(2025.7 現在)
開催期間:2023.2.11(土・祝)~ 2023.4.2(日)

みなさま~(大使二人)志摩スペインサロメンゴ村へ、来て!ですわ~!
実施場所:志摩スペイン村 住所:三重県志摩市磯部町坂崎952-4
VTuber名(所属):周央サンゴ・壱百満天原サロメ(にじさんじ)
登録者数:約61万人 約181万人(2025.7 現在)
開催期間:2024.2.10(土・祝)~ 2024.5.10(金)

事例分析:VTuber × 地域イベントの効果

今回の分析では、VTuberと地方自治体や企業による複数のコラボイベントの効果を検証することを目指したが、データの入手状況により、特に志摩スペイン村で実施された2つのイベントに焦点を当てて詳細に分析を行う。VTuberのタイプやイベントの規模、内容によって効果の現れ方が多様であるため、本分析結果はあくまで一例として捉える必要がある。

事例①:志摩スペイン村 × 周央サンゴ
三重県志摩市のテーマパーク「志摩スペイン村」と人気VTuber「周央サンゴ」(にじさんじ所属)によるコラボイベントは、2023年2月11日から4月2日に開催され、全国的な注目を集めた。本コラボレーションでは、来場者が楽しめる多様な体験が提供された。
主な内容は以下の通りである。

スタンプラリー
⚪︎園内4ヶ所に設置されたスタンプと等身大パネルを巡り、オリジナルステッカーを手に入れられる体験型ラリーが実施された
⚪︎料金:1,500円、チュロス引換券付き

特別上映「周央サンゴと見る空とぶドンキホーテ
⚪︎副音声付きでテーマソング「きっとパルケエスパーニャ」をBGMにした映像作品がカンブロン劇場にて上映された
⚪︎上映時間約20分、1日3〜4回

プリントシール機
⚪︎カンブロン劇場待合スペースに来場者が周央サンゴと一緒に撮影可能なオリジナル機が設置された
⚪︎料金:600円

コラボメニュー
⚪︎「tastyチュロサンデー」「苺ワッフルプレート」「サンゴちゃんラテ」など、見た目も可愛い周央サンゴコラボメニューが園内レストランで提供された

オリジナルグッズ販売5
⚪︎アクリルスタンド、マグカップ、トートバッグ等、多彩な限定グッズが園内限定で販売された

近鉄電車との連携
⚪︎鵜方駅でコラボステッカーの配布や、等身大パネルが設置された
⚪︎志摩線特急車内と駅構内での特別アナウンスが実施された 

これらの企画は、周央サンゴの魅力と志摩スペイン村本来の魅力の双方を活かし、互いの良さを引き立て合うように設計されていた。その結果、本コラボは大きな集客効果をもたらした。

このコラボは、仮説1・仮説2の両方を裏づける代表的事例である。イベント期間中の2月から3月にかけての来場者数は合計23万6,000人に達し、前年同期比で約1.9倍を記録した6。特にイベント初日には、前年同曜日比で約2.3倍の7,000人が来園するなど、明らかな集客効果が見られた6

イベントが実施されたのは2022年度であり、その影響によって集客数が増加していることは、以下の表に示す「2023年度 東海3県主要集客施設・集客実態調査7」のデータからも明らかである。

◇志摩スペイン村 集客者数

2021年度
1,188,000
2022年度
1,222,000
前年+34,000
2023年度
1,166,000
前年-56,000

「2023年度 東海3県主要集客施設・集客実態調査7」を元に作成


また、周央サンゴが「世界一うまい」と配信で紹介したチュロスは、1日平均約1,000本を販売し、例年比で約33倍の売上を記録した6。宿泊者数の推移においても、イベント開催月である2023年2月・3月の志摩市の宿泊者数が前年から大きく増加しており、以下のような変化が見られた。

◇志摩市宿泊者数

2月 3月
H30 / 2018 25,178 30,814
R1 / 2019 24,833 31,821
R2 / 2020 16,148 11,320
R3 / 2021 6,287 14,939
R4 / 2022 10,720 18,329
R5 / 2023 20,490 39,547

「令和5年志摩市観光統計8」をもとに作成

なお、志摩市全体の宿泊者数だけでは、志摩スペイン村単体の影響を正確に把握することが難しいため、同施設が所在する磯部地域(旧磯部町)の入込客数も併せて調査した。その結果、磯部地域においても宿泊者数が大きく増加していることが確認された。

◇磯部地域(旧磯部町) 入込客数

種別 H30 R1 R2 R3 R4 R5
日帰り客数 1,602,943 1,620,402 1,769,769 1,156,916 1,509,534 1,526,760
宿泊者数 428,818 437,584 445,823 164,703 312,659 417,933
合計 2,031,761 2,057,986 2,215,592 1,321,619 1,822,193 1,944,693
宿泊者数割合 21.11% 21.26% 20.12% 12.46% 17.16% 21.49%

「令和5年志摩市観光統計8」をもとに作成


また、志摩スペイン村の最寄駅である鵜方駅の利用者数も大きく増加していることが確認された。以下の表からもわかるように、2023年の利用者数は過去数年と比べて大幅に増加している。

◇鵜方駅利用者数

2月 3月
H30 / 2018 25,178 30,814
R1 / 2019 24,833 31,821
R2 / 2020 16,148 11,320
R3 / 2021 6,287 14,939
R4 / 2022 10,720 18,329
R5 / 2023 20,490 39,547

「令和5年志摩市観光統計8」をもとに作成

以上のように、志摩スペイン村と周央サンゴによる2023年のコラボイベントは、来場者数・物販売上・宿泊者数・最寄駅利用者数のいずれにおいても顕著な成果を示し、VTuberとのコラボが地域集客に大きく寄与することを裏付ける好例となった。
特に、VTuber本人による配信やSNSでの言及がファンの訪問動機を高めた点や、イベント全体が「推し活」と親和的に設計されていた点が成功の鍵であったと考えられる。

この成功を受けて、志摩スペイン村では翌年にさらにスケールアップしたコラボ施策が実施されることとなった。

次に紹介する2024年の事例では、出演VTuberの数が2名に増え、イベント期間も長期化するなど、より本格的な展開が図られている。

引用文献

1.バーチャルYouTuber – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%ABYouTuber

2.VTuber市場に関する調査を実施(2025年)
https://www.yano.co.jp/pressrelease/show/press_id/3806
#:~:text=%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83
%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%
AB%E3%82%B9%E7%A6%8D%E3%81%AB,%E5%84%
84%E5%86%86%E3%81%AB%E6%8B%A1%E5%A4%
A7%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82

3.【セミナーレポート】データから紐解くVTuberビジネス ~ファンの実態と実践分析~
https://www.wantedly.com/companies/company_6758968/post_articles/867362

4.「VTuber好き」ってこんな人!YouTubeチャンネル登録者のタイプを分析してみた。
https://note.com/macromill/n/nb722ca224c73

5.周央サンゴ×志摩スペイン村 コラボグッズ
https://twitter.com/SSV__official/status/1618811122949451776

6.来場者23万人超…志摩スペイン村×周央サンゴさんコラボ、なぜ大成功した?企業担当が知っておくべき「愛」と「リスペクト」のあり方
https://www.businessinsider.jp/article/268602/

7.2023 年度 東海 3 県主要集客施設・集客実態調査
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2024/07/seiken_240716_01.pdf

8.令和5年志摩市観光統計
https://www.city.shima.mie.jp/material/files/group/33/R05shimashikankoutoukei.pdf